蓬莱学園の犯罪!

「犯罪____学園生徒の日常生活が最後にいきつくところ(→『事件』『大事件』『クラブ活動』を参照)。三日以内に学園当局の知るところとなり、三か月以内に処罰がおこなわれるが、三年もすれば懐かしい青春の一ページと化す。……(中略)……まず、蓬莱学園における犯罪と刑罰の概念には、本土のそれとは異なる部分が少なからずあるという事実を受け入れなくてはならない。否、それを受け入れられた者だけが、世界でもっとも危険な学園生活を謳歌し得るのである。……」
____蓬莱学園式典実行委員会発行「宇津帆島全誌」より抜粋

蓬莱学園の犯罪!』を開くと定型通りの口絵と目次の次に地図とこの抜粋文がある。そう、まずなんといっても学園小説に地図があるのだ。校舎の見取り図ではない。宇津帆島全体と、その中でも本書で描かれる部分が拡大されている。その島には20万人の島民がいるのだがその内12万人もが蓬莱学園の生徒であり、その蓬莱学園統治機構は学園生徒が握っているのだ。……ここまで読んで、なんだ『とある魔術の禁書目録』の「学園都市」のほうがスケールでかいじゃんとか思ったら、ええい面倒だググれ! 蓬莱学園シリーズそもそもが元々、著者の新城十馬新城カズマ)により作られた物ではなく、日本全国のゲームユーザーによって作り上げられた物だということが分かるだろうから。しかし、同時に思うだろう、「なんだ、たいして情報無いじゃん」と。それもそのはず、このゲームはネットの黎明期以前に手紙によって行われていたのだから!
さてさて前置きが長くなってしまったけれども、本書『蓬莱学園の犯罪!』はシリーズ第二作目にあたる長編である。タイトルにもあるとおり、上記引用にもあるとおり、本書のテーマは犯罪だ。ではどんな犯罪か。盗み?殺人?いやいや、経済犯罪である。西尾維新はかつて言ってしまった。ライトノベルで書けないジャンルは経済小説だと。しかし、92年に既に新城一馬は書いていたのだ。ライトノベルという言葉が存在する以前においてではあるのだが。しかし、現在において蓬莱学園ライトノベルと認めない読者は……まあ、ライトノベル定義論争も脱線だ。
話は夏休みの最初の晩とある違法カジノ倶楽部における、稀代の女ギャンブラーと学園貴族による黄金生徒証を賭けたギャンブルに始まる。賭の勝敗が決したときに雪崩れ込む構内巡回班。誰かの手に渡る黄金生徒証。翌朝には学園の金融システムはストップし、構内経済は混乱、そこに現れ蔓延する謎のソーニャチップ。何故ソーニャチップは学園経済を乗っ取るほどの力があったのか? そのシステムが明かされたときの衝撃。貨幣とは、経済の仕組みとはこんな事だったのかと錯覚させられてしまうほど。
残念ながら新刊でこのシリーズを手に入れることはもうできないだろう。さあ、古書店をまわるんだ! 特に本書は米澤穂信が影響された100冊に入れてるんだぞ(だめだし)