メシアの処方箋

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

第三回小松左京賞受賞作『神様のパズル』の選評にて、「存在感のあるいきいきとした人物像」を褒められた機本伸司の第二作。僕は『神様のパズル』と昨年の早川新刊『スペース・プローブ』しか読んでいないんですが、確かに機本伸司のキャラ立ては凄いのひと言。『神様のパズル』で主人公を振り回すヒロイン穂瑞はただのツンデレ美少女の枠に収まらない器。これがどう進化するかと言うと、『スペース・プローブ』の主人公を振り回すヒロインにおいては、読者の感情値を最大限に不快にさせてくれるほどの「存在感のあるいきいきとした人物像」なんですよこれが。そして本作『メシアの処方箋』においても、主人公は振り回される巻き込まれ型なんですが、振り回す側が生命倫理感云々以前に、読者置いてけぼりの倫理観の「おっさん達」なんですよ。こいつらに感情移入することはおそらく不可能だし、かといって主人公はどうかといえば似たり寄ったりのレベルのおっさん。いやほんと、機本伸司作品は「存在感のあるいきいきとした人物」たちはどこか凄いベクトルでいきいきしてるけどね。
さて、上記の小松左京の選評では「壮大なテーマに真っ向から挑み、見事に寄り切った作品」とも評された機本先生。本作で扱うテーマはそのものずばり「救世主の創造」。地球温暖化の影響で凍解したヒマラヤの氷河湖から箱舟が見つかるという出だしには、ぐいぐい引き込まれてしまうことは間違いないはず。そしてその中身が、救世主の遺伝情報だとしたら? もう、ワクワクが止まらないですよ。本当にストーリーテーリングはお見事。登場人物を嫌悪しつつも読むてが止まらないのは、散々ぱら言っておいてなんですが、とにかく「真理を知りたい」という登場人物たちと同じ思いからなんです。そして、最後にもたらされた救済については、救って欲しいという心が逆転して、救いたいという心になることで終わっているのだけれど、救世主を置いていったデザイナーと同じくありがた迷惑である。
ところで表紙の方々はどなたでしょうか? 本作にはこんな奴らいないよ。デビュー作の表紙が当たったとはいえ、ハードカバーともまた違う、でもどちらにせよ誰だか分からんライトノベル風キャラ絵を持ってくる理由が謎。でも、早川の『スペース・プローブ』も同じ路線なんだよね。内容と表紙の乖離の激しい本の人だな。