スプライトシュピーゲルIV テンペスト

冲方丁は闘う作家なのだと再認識させられた。誰と戦うのか? 世界と闘っているのだ。ライトノベルという媒体で、文学に戦いを挑み、世界の悲しみと未来に戦いを挑み、そして読者にも戦いを挑む。
スーダンダルフール地方で起きた大虐殺事件の国際裁判が、ミリオポリスの国連都市で開かれる。被告人の軍事独裁政権の将軍と彼の有罪を証言する7人の証人たち。MSSの特甲児童の少女達は彼らの護衛を命じられるのだが、対面した証人達の強靭な意志に打たれ、心を通わせ、何としても守り抜く覚悟を新たにする。しかし、厳戒態勢の国連都市を武装テロリストが急襲。予想外の大部隊、重武装悪天候により孤立する警備隊、巧妙に張り巡らされた計画と罠、裏切り、そして、最強の敵の登場。我が身をいとわず奮戦する少女達だが、自らの死さえも見越していたかのように淡々と殺されていく証人達。
圧倒的な筆力で描かれる少女たちの戦いはまさにノンストップ。500Pを超える文量も苦にならない。特にIV巻では鳳たちを支える大人たちの戦いが熱い。MSSの面子だけではなく、7人の証人たちそれぞれの信念と真意。本作がただの戦闘美少女によるSFドンパチに終わらないのは、この大人たちの戦いがあるからこそ。逆説的に言えば、やはり既に冲方丁にとって少女たちの戦いを描くリミットが迫っているように思える。シュピーゲルシリーズは、それぞれ6巻で締めくくられるそうだが、冲方丁はどのようにこの作品との闘いに終止符を打つのだろうか? ドキドキするっしょ!
しかしながら、本作で僕が最もしびれたシーンは戦闘などではなく、世界統一ゲームという架空のTRPGを特甲児童の少女たちと証人たちが行うシーンだ。実質、読んだ感覚ではTRPGというよりも高度に発達したディプロマシーとでも言うべきか。このゲームの過程で描かれる未来予想はとてもスリリングかつ現実的。実際、地球温暖化や次世代エネルギーによる食物高騰、水危機まで一級のドキュメンタリーを読んでいるような感覚だ。現在進行形で続いているスーダンダルフール危機などと併せて、やはり冲方丁ライトノベルの舞台から読者に強く戦いを仕掛けてきている。
□参考⇒スーダン・ダルフール危機情報wiki