とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

僕がいまさら言うまでもないのですが、文句なしに数多のライトのベル読者にお薦めできる作品でした。以下若干ネタバレありで感想を書いています。
大瀑布と呼ばれる海の断層を境目に、ふたつの大陸国家が飛空挺を駆って戦う世界。主人公は両者の混血児として生まれ孤児として育ち虐げられつつも、飛空士としての腕は確かなもの。その腕を買われた主人公に託された任務こそ、「次期皇女妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」というもの。
そして始まる12,000キロのふたりだけの飛行譚。次々と襲い掛かる敵機との手に汗握る空中戦、そして「ローマの休日」を髣髴とさせる身分違いのふたりの心の機微。どちらも巧く描かれていますが文章力を感じさせるのは熱い空中戦。戦闘シーンになるとぐいぐい引き込まれてしまいました。もうひとつの主題のほうですが、確かにこれも美味しい。王道中の王道な話をそつなくこなしていて好印象。ただ、日常のシーンになると若干文章にメリハリがなくなってしまうのが惜しいところ。
ただし、そんな瑣末なことを消し飛ばしてしまうラストの展開は見事の一言。とはいっても、アクロバットな着地ではなく、誰しもが半ば予想しえるほろ苦い結末。しかし、だからこそこの作品は多くの読者に感動を与えているのでしょう。そして最後にもう一度表紙を見て余韻に浸ることをお勧めします。