暗黒太陽の目覚め(上)(下)

暗黒太陽の目覚め〈上〉 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

暗黒太陽の目覚め〈上〉 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

林譲治が角川ハルキ事務所の今は無きヌーヴェルSFシリーズで展開していた“那國文明圏”シリーズの第二作。とはいっても、前作「侵略者の平和」と本作のみでシリーズは中断した模様。林譲治氏のHPを見るとまだ続く可能性はあったようですが。

貨客船“フェニックス”を、『宇宙犯罪組織龍党』と名乗る艦隊が襲った。乗船していた女優「桜叶みさと」は“フェニックス”が那国防衛軍重巡洋艦を改装した船であることを利用して、フェイクと自らの演技力でこの危機に立ち向かう。一方、恒星オデッサの観測のために同じく“フェニックス”でやってきたサンジェルマン博士は、異常な質量の不均衡を観測した。この現象がもたらす災厄は!宇宙都市オデッサに危機が迫る。

上巻のあらすじをアマゾンから借りてきましたが、明かされる災厄とはタイトルのとおり主星オデッサブラックホールの影響で爆発する!というもの。ここまでで上巻なのですが、辛かった。下巻を読むまでに数ヶ月明けてしまうほどに読むのが辛かった。設定はとても魅力的な作品なんですよ。那國文明圏とその組織体系。そして前作から続く古代人との因果。しかし、それを含めて全てを地の文で説明しようとするから文章も構成も冗長。更に性質の悪いことに、そこまで説明しておいて肝心な部分は謎のままだったり説明不足だったりする。例えば、例の彼女の夢とあのオチはなんなんですか?
また、本作は様々な個性的な登場人物の登場が特徴。どんな緊張感のある場面でも、ブリッジクルーはつまらん漫談に精を出し、挙句「自称ぴーちゃん」なる“大物”まで登場。肩の力が抜けると言うよりは腰砕け。更に、多くの登場人物が出る割には個々の見せ場は少なく、上巻で大活躍のサンジェルマン博士など下巻では出番なし。
散々に書いてしまいましたが、“那國文明圏”シリーズは魅力的なプロットです。もしもこれを現在の林譲治が書き直したら、きっと読み応えのあるきちんとした物語に仕上げてくれるのではないでしょうか。……でも、この作品でやりたかったことって後の作品で書いてる気もするし。残念。
しかし、ひとつ付記しなければならないのは、表紙の美麗なイラストを飾る佐藤道明氏のお仕事。巻末には設定画まで付いてきてそこはお得。