妙なる技の乙女たち

妙なる技の乙女たち

妙なる技の乙女たち

時は2050年。カーボンナノホイールの登場により赤道直下シンガポール沖のリンガ島には軌道エレベーターが建設されていた。宇宙産業の企業城下町として、メガフロートを連結して作られたリンガ島では東南アジアの独特の空気の下混沌と発展している。そんなリンガ島では、宇宙服デザインに挑む駆け出しデザイナー、港の小舟タクシーの「艇長」、機械の腕をもつ彫刻家、巨大企業の末端で不満を抱えるOLなど、自らの「技」を武器に、熱く働く女たちがいた。小川一水ポプラ社の「asta*」にて連載していた、働く女たちを描くオムニバスストーリー。
これまでも小川一水は働く人たちを執拗に描き続けてきた。本作もその系譜にあたるのだが、テーマがより絞られて「働く女性」となっている。どの短編のヒロイン達も強くしなやかで、善良だ。小川一水が描く人物像というのは得てして性善説の強いキャラクターになってしまうのだが、本作のヒロイン達にもその傾向は強い。しかし、小川一水が描きたかったであろう「強く生き、強く働く女性像」はしっかり打ち出されており、おそらくは著者の手腕にブレはない。ただそこで、読者が若干の物足りなさを感じるか否かではあるが。
また、一般誌での連載だからか、SF色は極めて薄くなっている。軌道エレベーターも自動翻訳機も日常に存在するが、ただそれは日常にあるものでしかない。むしろ、人種の坩堝と化した近未来の東南アジアの島という設定のほうが色濃く印象に残った作品。宇宙ものといえばどうしても宇宙へのロマンを求める僕ですが、こういった地に足の着いた作品もいいものでした。しかし、最後の1篇「the Lifestyles Of Human-beings At Space」は宇宙開発SFとしても秀逸。現在の宇宙開発のその先をぽんと提示してくれていますよ。