M.G.H. 楽園の鏡像

M.G.H.―楽園の鏡像 (徳間デュアル文庫)

M.G.H.―楽園の鏡像 (徳間デュアル文庫)

無重力空間をゆっくりと漂う死体。破損した無骨な作業服と散らばった血粒―その姿はまるで数十メートルの高度から墜落したかのようだった!?日本初の多目的宇宙ステーション『白鳳』で起きた不可解な死は、はたして事故なのか、事件なのか。従妹の森鷹舞衣とともに、『白鳳』を訪れていた鷲見崎凌は、謎の真相を探ることになる…。ハイテクノロジーが集積する場所で、人は何を思い描くのか。第1回日本SF新人賞を、選考会満場一致で受賞した本格SFミステリー。

日本SF新人賞受賞作の文庫版。これまで受賞作は吉川良太郎と樺山三映しか読んでいないので、少し身構えて読み始めたところ肩透かしを食らった。語弊があるが、宇宙ステーションと電脳人工知能に主軸を置いたスタンダードなSFだったからだ。また、登場人物もライトノベル作家でもある三雲岳斗として読み始めて身としては、いささか類型的過ぎるきらいがあるように思えた。
しかし、読了後に感じるのは作家としての三雲岳斗の確かな実力である。SF作家としての三雲岳斗は物語に科学的冷徹さを伴った凛とした空気を与える。ライトノベル作家としての三雲岳斗もそこに確かに居て、ヒロインの造形と言動にはなかなかどぎまぎさせられる。が、そこはライトノベルよりもひとつ背伸びした女性像と人間関係が描かれている。そして、この作品の肝である宇宙ステーションでの墜落死という不可能犯罪だ。このトリックはシンプルだからこそ美しかった。
ただ、この作品が三雲岳斗にとってどういう位置づけなのか気になるところだ。日本SF新人賞というためか、執筆時の若さなのか。まだまだ文章は硬い印象を受ける。また、物語として起伏にかけるところが若干気になった。
ところで、徳間デュアル文庫になる際に大幅に表紙デザインが変更されたが、作品の印象からしてハードカバー版の墜落した宇宙飛行士のシンプルかつ大胆なイラストが良かったのではないか。ただこれは、世界観を同じとした『海底密室』が徳間デュアル文庫で先に出版されている事情があるのだろうな。

M.G.H.―楽園の鏡像

M.G.H.―楽園の鏡像